空き家活用でグループホームを開設するメリットと注意点

障害福祉サービス事業を立ち上げる際、適切な物件を見つけることは、事業成功の鍵となります。
特に、共同生活援助(グループホーム)の開設には、法律や条例をクリアした大規模な物件が必要です。
しかし、物件探しに苦労する方も多く、その解決策として注目されているのが空き家の活用です。
本記事では、空き家を利用する際のメリットと注意点を解説します。

なお、以前にも障害福祉サービス事業に空き家が使えるのかをテーマにした記事を執筆しておりますので、ぜひ併せてご参照ください。

グループホーム開設に空き家を活用するメリット

結論から言えば、空き家を利用してグループホームを開設することは可能です。

空き家を活用する最大のメリットは、コストの削減です。
新築よりも初期費用が抑えられ、自治体の空き家対策制度を利用することで助成を受けられる場合もあります。
また、既存の物件を利用するため、内覧が可能で運営イメージを具体化しやすい点も魅力です。

しかし、空き家を活用する際にはいくつかの注意点があります。
まず、利用者が安心して居住できる環境かどうか(交通の便や地域の環境)を確認することが重要です。
また、物件が法令や条例の基準を満たしているか、地域住民の理解と協力が得られるかも確認すべきポイントです。
これらの条件を満たした空き家を選び、しっかりと準備をすることで、グループホームの開設を成功させることができます。

空き家活用における重要な注意点

空き家を活用する上、以下の3つの点に注意する必要があります。

  • 利用者の生活に適した環境
  • 法令や条例の基準
  • 地域住民の理解と協力

これらの重要な注意点を考慮しながら、空き家物件を選びましょう。

❶ 利用者の生活に適した環境

グループホームの利用者が自立した日常生活を送れる環境を重視しなければなりません。
そのためには、次のような環境を提供でき、利用者ニーズにも対応した物件確保が重要になります。

  • 安全の確保
    バリアフリー設計で緊急時に対応できる建物構造、設備や備品の整備、安全管理が万全であること
  • 快適な生活空間の提供
    騒音や振動、環境臭などがなく、衛生管理や空調管理が整い、個室のプライバシーが守られていること
  • 健康サポートの提供
    体調管理や精神的健康管理をサポートし、医療機関との連携が確保されていること
  • 利便性の確保
    建物内の生活上の利便性、買い物や通勤などの移動上の利便性が確保されていること

空き家活用の際、上記のような環境構築のための改修工事や設備の設置などの物的整備が必要となりますが、予算などの限界があります。
また、立地も考えなければなりませんが、理想を追いすぎると物件が見つからないことがあります。
物的整備と立地は、ある程度の妥協が必要で、その不充足分は事業運営のやり方でカバーするようにします。

このように、物的整備、立地、事業運営のバランスが取れるような空き家物件を探すようにすると良いでしょう。

❷ 法令や条例の基準

グループホームの開設には、いくつもの法律や条例(これ以降、法令等と言います)を遵守する必要があります。
法令等には、障害者総合支援法、建築基準法、消防法などの法律、その他自治体の条例、それらの関連法令等があります。
全てに精通しておく必要はありませんが、開設と運用に関する基準は熟知しておく必要があります。

障害者総合支援法の基準

グループホームは利用者の生活の拠点となるため、住環境の最低基準が定められています。
ただし、基準を満たすだけでなく、利用者の障害の種類や程度に応じて、基準以上の配慮が求められます。

  • 立地等
    利用者が、共同で日常生活を送り、地域の一員として社会生活も送れる環境づくりが重要です。
    • 住宅地又は住宅地と同程度に利用者の家族や地域住民との交流の機会が確保される地域であること
    • 入所施設又は病院の敷地の外にあること
  • 設備
    設備などの住環境は、人が暮らす最低限の環境だけでなく、障害の種類や程度に応じた環境づくりが求められます。
    • 障害福祉サービス事業所は、1つ以上の共同生活住居を有すること
      ※共同生活住居:複数の居室、居間(リビング)、食堂(ダイニング)、トイレ、浴室等を共有する住居
    • 共同生活住居は、1つ以上のユニットを有すること
      ※ユニット:居室、居間、食堂、トイレ、浴室等の設備が設けられた住居
    • 住居内の個々の居室は、収納設備等を除いて7.43㎡以上の面積があること
      ※注:・カーテンやパーテーションなどで部屋を分けたものは認められない
         ・居室の面積は4.5畳相当であるが、あくまでも7.43㎡以上の面積があることが求められる
         ・居室が生活の主体であることから、面積や状態に応じて、収納設備を別に確保するなど配慮する
    • 居室ごとに廊下や居間などにつながる出入口があること
    • 居室以外に居間と食堂または、リビングダイニングがあること
      ※注:利用者や職員が一堂に会し、相互に交流ができることが求められる
    • トイレの手洗いと洗面所の兼用は不可
      浴室も同様に、トイレの手洗いと洗面所の兼用は不可
    • トイレと浴室は、10名を上限とする生活単位ごとに区分して配置
  • 入居定員
    共同生活住居の入居定員は、新築物件・既存物件によって異なり、特例基準もあります。
    また、1個ユニット当たり、2人以上10人以下という基準もあります。
    • 新築物件の場合:2人以上10人以下
    • 既存物件活用の場合:2人以上20人以下
    • 都道府県知事が特に認める場合:2人以上20人以下
    • 1個居室の定員は2人
      ただし、夫婦で居住するなどの場合、2人部屋も可能であるが、十分な居室面積を確保すること

なお、上記以外でサテライト型住居の基準もあります。

建築基準法の基準

耐震基準

建築基準法は、人の生命や健康、財産を守るために、建物の敷地や構造、設備、用途に関する基準を定めています。
特に、1981年に建築基準法の耐震基準が改正され、この基準を満たしていることが必須となっています。

空き家を活用する際には、耐震基準を満たしているかどうかを確認する必要があります。
古い耐震基準で建てられた物件も多いため、耐震診断を依頼することを検討しましょう。
耐震診断の費用は、一般的に木造住宅で延床面積120㎡前後の1棟あたり60~100万円程度のようです。

建物構造の基準

グループホームの建物は、耐震基準以外にもさまざまな基準に適合する必要があります。
たとえば、居室の採光や換気についての基準があります。

  • 採光基準:各居室の床面積の7分の1以上の窓面積を確保すること。
  • 換気基準:各居室の床面積の20分の1以上の換気口を確保すること。

これらの基準を満たすことにより、居住者が快適で安全な環境を享受できるようになります。

用途変更の必要性

総床面積が200㎡を超える建物をグループホームとして使用する場合、用途変更が必要になります。
用途とは、建物がどのような目的で使用されるかを示すものです。

200㎡以下の建物であれば手続きは不要ですが、それ以上の場合は建築士に依頼して用途変更を行う必要があります。
戸建て物件を利用する場合、用途は「寄宿舎」に変更することが求められ、費用は一般的に100万円前後です。

消防法の基準

消防法は、建物の防火や消防設備についての規制を定めています。
グループホームは特定防火対象物に指定されており、一般的な住居よりも厳しい基準が適用されます。
空き家を活用する場合、利用者の障害支援区分や建物の構造に応じて、必要な設備を設置する必要があります。

区分4以上の方が概ね8割以上いる場合(消防法施行令 別表第1 第6項ロ)
  • 全ての建物で必要
    • 消火器
    • スプリンクラー設備
    • 自動火災報知設備
    • 火災通報装置(自動火災報知設備と連動式)
    • 誘導灯
  • 建物の条件によっては必要
    • 屋内消火栓設備:延べ面積700㎡以上の場合
    • 漏電火災警報器:延べ面積300㎡以上の場合
    • 非常警報設備:収容人員50人以上の場合
    • 避難器具:収容人員20人以上の場合
前項以外の場合(消防法施行令 別表第1 第6項ハ)
  • 全ての建物で必要
    • 自動火災報知設備
    • 誘導灯
  • 建物の条件によっては必要
    • 消火器:延べ面積150㎡以上の場合
    • 屋内消火栓設備:延べ面積700㎡以上の場合
    • スプリンクラー設備:床面積6,000㎡以上の場合
    • 自動火災報知設備:延べ面積300㎡以上の場合
    • 漏電火災警報器:延べ面積300㎡以上の場合
    • 火災通報装置:延べ面積500㎡以上の場合
    • 非常警報設備:収容人員50人以上の場合
    • 避難器具:収容人員20人以上の場合

バリアフリー法と自治体の条例の基準

バリアフリー法は、高齢者や障害者の移動や施設の利用を容易にすることを目的としています。
建物の床面積が2,000㎡以上の場合は、基準の適合が義務です。
具体的な基準は以下のとおりです。
※義務基準:最低レベルの基準  誘導基準:促進されるべき基準

  • 出入口 
    • 義務基準:幅80cm以上 
    • 誘導基準:幅90cm以上 
  • 廊下 
    • 義務基準:幅120cm以上 
    • 誘導基準:幅180cm以上 
  • スロープ 
    • 義務基準:片側に手すりを設置し、幅120cm以上 
    • 誘導基準:両側に手すりを設置し、幅150cm以上 

これら以外にも基準があり、更に、自治体の条例で厳しい基準が設定されている場合があります。
東京都のバリアフリー条例では、床面積にかかわらず、法の基準の適合が義務付けられています。

※参考資料建築物のバリアフリー化を進めるために!(東京都のパンフレット)

また、空き家活用を想定し、基準適合の考え方が、以下のように示されています。

主たる利用者が知的・精神障害者等に限定されている場合で、身体障害者等の上下階の移動が困難な者がサービスを利用しない場合、次の基準は適用しない。

  • 移動等円滑化経路に関する基準
  • 階段の幅、けあげ及び踏面の寸法に関する基準
  • 便所に設ける車いす使用者用便房、水洗器具を設けた便房、ベビーチェア等を設けた便房、ベビーベッド等の設備に関する基準
  • 浴室等の出入口の幅、車いす使用者が円滑に利用できる空間の確保に関する基準

※参考資料高齢者、障害者等が利用しやすい建築物の整備に関する条例第14条の適用に係る基本的な考え方について(東京都都市整備局)

その他の事前確認が必要な事項

  • 都市計画法による用途地域
    建物の用途変更を行う際、各自治体の都市計画で制限がないかを確認する必要があります。
    まれなケースではありますが、場合によっては開発許可などの手続きが必要となることがあります。 
  • 水防法や土砂災害防止法に基づく開設後の義務
    浸水想定区域や土砂災害警戒区域内での開設には、避難確保計画の策定と提出、避難訓練の実施が義務付けられています。
    可能であれば、これらの区域外の物件を選ぶ方が望ましいです。 

    ※参考資料水防法・土砂災害防止法の改正(国土交通省水管理・国土保全局)

❸ 地域住民の理解と協力

障害者総合支援法の基準に「住宅地又は住宅地と同程度に利用者の家族や地域住民との交流の機会が確保される地域であること」がありました。
これは、同法の目的にも「基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活または社会生活を営む」とあります。

グループホーム開設の当たり、地域住民の理解を得ることは、その後の利用者の生活に大きく影響します。
また、日頃から地域住民との交流を図り、更なる理解促進と相互協力の関係維持が重要にになります。

そこで、空き家活用の場合、その空き家に住んでいた方や管理者から地域の状況を確認すると良いでしょう。
近所付き合いの程度や高齢化の状況、他の障がい者の存在、自治会行事への参画など、有益な情報を得られる可能性があります

その上で、説明会を開催し、地域住民からの意見や質問に応じつつ、関係構築を進めることが重要です。
説明会では、入居予定者の障害特性や地域住民がどのように対応すれば良いのかを率直に説明します。
また、地域住民からの質問や意見にも誠実に対応することで、疑念や誤解を払拭するように努めます。

開設後も利用者の障害特性に配慮し、地域住民と交流できる機会を継続的に作ることが大切です。
このような活動の継続が地域住民の理解を促進し、協力関係の構築にもつながります。
さらに、災害発生時の共助の観点から、地区防災の体制構築と具体的な活動が求められています。
その観点でも地域住民の理解と協力は、障害者支援において非常に重要です。

なお、今年度から「地域連携推進会議」の年1回以上の開催が義務付けられました。
施設内の見学も行うこととされていますので、その機会も有効に活用すると良いでしょう。

※以下に関連記事を紹介します。

まとめ

空き家を活用したグループホームの開設には、コスト削減や既存物件の利用によるイメージの具体化といったメリットがあります。
しかし、法令や条例の基準を満たすことや、利用者のニーズに応じた環境の整備、地域住民の理解と協力を得ることが不可欠です。
空き家を活用する際には、これらの点を考慮し、事前準備を徹底することで、成功に繋がります。