NHKの調査で浮き彫りになった現状と将来の課題:障害福祉サービス事業の開設は戦略が必要

2024年7月9日から11日の間に、NHKは障がい者の生活の場に関する現状について調査した番組が放送されました

その番組では、深刻な現状とその解決策が見出せない状況が浮き彫りになりました

番組内容は、NHKのNEWS WEBに記事として公開されていますので、一読してみてください
(日にちが経つとアクセスできなくなる可能性があります)

今回は、NHKの調査結果を整理し、将来にわたる課題を確認したいと思います

調査結果の要約

調査結果から次のような現状と課題が見えてきました
※以下は、NHKのNEWS WEBの記事内容を要約したものです

  • 入所施設の不足
    • 受け入れ可能な施設が不足しており、特に重度の知的障がい者が利用できる施設が不足している
    • 多くの知的障がい者がショートステイ施設に長期滞在しており、福祉事業者も対応に苦慮している
    • 自宅近くに施設がないため、多くの障がい者が自宅を離れて別の都道府県の施設を利用しており、家族が会いに行くのも困難な状況がある
  • 待機者の実態
    • 入所施設やグループホームを希望し、入所できずに待機している障がい者が少なくとも述べ2万2000人が存在し、その7割以上が知的障がい者
    • 少子高齢化に伴い、高齢の親が障害のある子供の将来を心配して入所を希望するケースが増えている
  • 国と自治体の状況
    • 国は障がい者の地域生活を推進し、入所施設からグループホームへの移行を進めているが、施設や人材の不足が課題となっている
    • 自治体でグループホームの設置を進めているが、土地代や専門的な人材の確保が難しく、十分な支援体制が整っていない
  • 専門家の意見
    • 障がい者が希望する住まいを確保するためには、待機者の実態把握と重度障がい者に対応できる施設や人材の整備が必要
    • 補助のあり方や人員体制、ハード面の整備などに行政の介入が必要

将来にわたり、解決策が見出せない課題

調査結果から見えてくるのは、次の2つの大きな課題です

  • 入所希望の待機者数に対し、個々のニーズに即した入所施設が不足している
  • 障害福祉の人材が不足している

また、効果的で即効性のある解決策が見出せていないのが現状です

仮に現在の待機者2万2000人を全て施設に入所させるとした場合、以下のような非現実的な数字が出てきます

  • 1個施設当たり20人が入居できる施設が1,100箇所必要
  • 1個施設にサービス管理責任者1名以上が必要で、1,100人以上の有資格者が必要
  • 1個施設に世話人等5人を配置した場合、5,500人の人材が必要
  • 1個施設あたり月200万円の報酬(介護給付費等)が支払われるとした場合、月額22億円(年間264億円)の追加の福祉事業費(国家予算)が必要

これらは極めて非現実的な数字であり、実現は困難です
また、将来的に人口減少で待機者数が減少したとしても、障害福祉の人材も減少するため、根本的な解決には至りません

施設を増やすにしても、法規制や物件の制約、財力が大きなハードルとなります
現行法の施設基準や建築基準、消防法の基準などを全てクリアする物件を確保しなければなりません
しかし、都市部と地方で格差なく使用できる土地・建物が潤沢にあるわけではありません
また、物件確保には資金が必要であり、財力がない事業者にとっては参入が難しいのが現状です

それらを踏まえると、当面の対策として、次のような施策が期待されます

  • 障害者自立支援法の主旨を踏まえつつ、法規制の緩和
  • 空き家・空き物件の優先的な利活用と優遇対応
  • 財政支援と税制優遇
  • 人材育成とICT・DXによる省人化の両面推進

これらの施策を行っても、解決には至らない可能性がありますが、何もしないよりは前進できるでしょう

これからの障害福祉サービス事業の開設を考える

NHKの調査結果から、障がい者を取り巻く環境がかなり深刻な状況にあることが分かります

特に、入所施設やグループホーム、福祉人材の数が不足していますが、単に施設数や人材数が少ないだけではなく、多様な障がい者ニーズに柔軟に対応できないこと、都市部と地方での地政的な違いや格差があることなど、さまざまな課題があります

このような現状で事業を開設する際は、理想や理念を追求するだけでは成り立ちません
これからの障害福祉サービス事業の開設と運営は、戦略的かつ計画的に進めることが重要です
時間や労力が相当かかりますが、今回の調査結果を参考に、情報を収集し、次のような検討と戦略立案が必要です

  • 入所待機者が多い地域での開設を検討する
    開設後すぐに利用者が集まれば、事業経営が安定しやすいので、それが期待できる地域での開設を検討します
  • 空き家・空き物件の活用を検討する
    建築基準などに適合させる改修が必要となるが、家賃や物件価格が安い傾向にあるため、経費を抑えやすいです
    ※参考note記事:障害福祉サービス事業に空き家は使えるの
  • 公的制度の活用を検討する
    国や自治体ごとの空き家対策補助、ICT導入モデル補助、DX推進人材育成支援などの制度を活用して開設・運営の資金を確保します

障害福祉サービス事業を成功させるためには、これらの戦略を踏まえ、慎重な計画と実行が求められます