今だからこそ、できることがある:南海トラフ地震に備えるポイント

8月8日に宮崎県で地震が発生し、気象庁は南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」を発表しました。

この情報を受け、私たちは地震への意識をさらに高め、備えを進める必要があります。
しかし、今は、すぐに避難や疎開などの行動を取る段階ではなく、最悪の事態に備えて準備を進める段階です。

今こそ、日頃から準備してきた災害対策や業務継続計画(BCP)を見直し、必要な準備を進める時期だと考えます。

今回は、南海トラフ地震に備えるために今やるべき確認と準備について解説します。

警戒意識を高め、必要な準備を進める

今回の臨時情報は、注意を喚起するものであり、避難所への避難や他地域への疎開といった行動を示唆するものではありません。
今は、日常生活を続けながら、地震発生に対する警戒意識を高め、必要な準備を進めることが重要であることが示されています。

日常生活を続けながら、今やるべきことの代表例としては以下のとおりかと思います。

●災害対策

  • ハザードマップの確認
    避難所や避難経路を再確認しましょう。
  • 物理的な対策
    高所にある物や倒れやすい物の対策を施します。
  • 非常持出品の確認
    水や食料、簡易トイレなどの備蓄品を確認し、必要に応じて追加します。
  • 緊急連絡手段の確認
    連絡手段や手順を確認し、家族と情報を共有します。
  • 家族間の打ち合わせ
    地震発生直後の行動について家族と話し合います。

業務継続計画(BCP)

  • 行動確認
    地震災害時の行動や被害を受けた事業の復旧・継続に関する事項を確認します。
  • 非常用物品の確認
    重要業務に必要な非常用物品や備蓄品を確認し、準備を進めます。
  • 職員間の打ち合わせ
    緊急連絡手段や手順を確認し、職員間で共有します。
  • 利用者に対する説明等
    発災時の行動について利用者に説明し、協力を依頼します。

特に重視したいのは、家族間や職員間との事前の打ち合わせ、利用者に対する説明等です。
大規模な災害発生時は、誰もが慌てたり、錯綜したりします。
更に、職員間や自分らの家族、外出中の利用者や利用者の家族などとの連絡が取りづらく、情報も錯綜する可能性があります。
お互いに連絡が取れなくても、事前の打ち合わせで行動が明確になっていれば、適切な行動を取ることができます。
また、事業所等に事業主や管理者が不在でも、職員らが事業を運営できるようになります。

業務継続計画(BCP)の見直し

BCPで示されている事項が現場の現状に合っていない場合があります。
また、利用者の状況やニーズが変化していることも考えられます。
そのため、現在のBCPが発災後に有効に機能するかどうかを評価し、修正する必要があります。

今回の南海トラフ地震臨時情報の発表は、以下の理由で、BCPを見直す絶好の機会となりました。

  • 南海トラフ地震に的を絞った対策
    想定被害が具体的になり、想定被害に基づく対策を講じやすくなります。
  • 職員からの意見等を聴きやすい
    防災意識が高まった職員から現状、職員の意見や要望を聴きやすく、職員も積極的に発言しやすい状況にあります。
  • 協力体制の強化
    防災意識が高まった職員と利用者との共同した活動がしやすくなります。

現在のBCPが簡易的なものである場合、内容を充実させる良い機会でもあります。
事業主や経営陣、担当者だけでなく、職員や利用者の協力を得てBCPを見直すことで、効果的な対策を講じることができます。

防災訓練・BCP訓練の実施

これまでいつ発生するかわからなかった大地震が、身近な危機と感じられる今、訓練を行うことには大きな意義があります。

現在、職員や利用者、利用者の家族、地域住民などの防災意識が高まっており、訓練に前向きに参加してもらえることが期待できます。
意識が高く、前向きであれば、個々の知識や能力も向上しやすくなりますので、予行練習として訓練を行うことをお勧めします。

訓練の内容としては、重要だが要領が定まっていない活動や行動を優先して行うと良いでしょう。
その理由は、訓練を通じて不具合や障害に気づき、効果的な対策と実施要領を見出せるからです。

この際、以下のような訓練を小規模・短時間に、反復して行うことをお勧めします。

  • 緊急連絡・情報共有の訓練
    迅速な情報共有の手順を確認します。
  • 緊急参集訓練
    徒歩や自転車での出勤訓練を行い、非常時の移動手段の確認と行動要領の習熟を図ります。
  • 災害対策本部の立ち上げ訓練
    迅速に対策本部を設置し、災害発生下で指示が出せる態勢構築の習熟を図ります。
  • 避難訓練
    一時避難場所や指定避難所への移動訓練を行い、利用者の誘導と移動支援の要領の確認と習熟を図ります。
  • 非常用器材の操作訓練
    緊急時に必要な器材の操作方法を確認し、能力の付与向上を図ります。

なお、訓練にあたっては、安全を最優先し、実際の災害と誤解されないように注意して行います。

さいごに

今回の南海トラフ地震臨時情報の発表は、大地震の発生が急迫していることを示すものではありませんが、必要な対策や準備を進めるべきことを示しています。
しかし、地震対策や準備は、非常物品の備蓄や耐震措置、ハザードマップの確認だけでは不十分です。
また、災害対策計画や業務継続計画(BCP)も存在するだけでは効果を発揮しません。
職員の意見を反映して各種計画を見直し、小規模・短時間でも訓練を行うことで、実際の災害時に大きな効果を発揮します。

危機管理の父と呼ばれた佐々 淳行氏の言葉に、「悲観的に準備し、楽観的に対処せよ」というものがあります。
これは、最悪の事態を想定して備え、実際の事態では冷静に対処せよ、という意味です。

冷静に対処するためには、周到な事前準備が必要です。
物的な備えだけでなく、人の意識や能力の備えも重要です。

今だからこそできること・やるべきことを、今から進めていきましょう。