障害福祉サービス事業におけるICTとDXの重要性と効果
障害福祉サービス事業にあっては、ICTの活用やDXの推進が求められています
今年度の報酬改定においても、障害福祉の現場の業務効率化を図るため、ICTの活用が強調されています
ICTの活用やDXの推進が行われていなくても報酬減算などの措置はありませんが、運営指導や第三者評価で指摘される可能性があります
しかし、ICTやDXが本当に必要なのかどうか分からない方も多いでしょう
また、コストがかかる、専門的な知識が必要など、導入と推進に際して壁があるかと思います
今回は、障害福祉の現場におけるICT活用とDX推進の重要性と効果について考えてみます
ICTとDXの概要(再確認)
- ICTとは
インターネットなどの通信を介して情報のやり取りを行う技術を指します
例えば、テレビ会議システムやクラウドサービス、グループウェアなどがあります - DXとは
ICTなどのデジタル技術を取り入れて事業の運営・経営、現場の業務を変革することをいいます
例えば、テレビ会議システムを導入により、人を集めず・場所を選ばない会議の開催が実現できます
ICT活用とDX推進の必要性
ICT活用とDX推進が必要かどうかの問いには、様々な意見や考え方があるのが現状です
ただ、確実に言えるのは、目的・目標を持たないICT活用とDX推進は、負担ばかりで効果はありません
ここで言う「目的・目標」とは、障がい者の自立した生活を支援するため、事業運営や現場業務の課題を解決することです
課題があれば、ICT活用とDX推進は有効な取り組みとなります
しかし、課題があることを認識していなければ、解決するという発想がありません
発想がなければ、ICTとDXの必要性は感じないことでしょう
また、ICTやDXは技術や仕組みが複雑で理解しづらいため、ある程度の専門的知識が必要であり、導入の妨げとなることがあります
さらに、関連機器やソフトウェアは安価ではないため、必要性を認めても導入は難しいと考えることもあるでしょう
ICT活用とDX推進が必要かどうかは、事業運営と現場業務の課題に対する認識、専門的知識の有無、導入コストの心配などの要因で判断が変わります
ICT導入のメリットとデメリット
厚生労働省の障害者政策総合研究事業として、ICTを活用した障害福祉サービス等の業務の効率化と効果の検証が行われました
その検証結果が令和4年に報告書として公開され、ICT導入のメリットとデメリットが報告されています
●導入のメリット
- 施設間の移動、研修や会議のための移動、巡回などの時間の短縮
- 記録作業の省力化、チャットツール等の活用による申し送り時間の短縮
- 業務処理の時間短縮により、利用者に向き合う時間が増加
- オンライン会議によって、会議室の確保が不要
- 職員が直行直帰できるようになり、働き方改革につながった
●導入のデメリット・リスク
- 機材やソフトウェアの管理不足などで発生する技術的なセキュリティ・リスク
- 情報管理の不徹底、過誤などの人的なセキュリティ・リスク
- 専門知識がある職員に依存しすぎることで、ICTが機能しなくなる懸念
事業運営や現場業務において、時間の短縮や省力化で解決できる課題があれば、ICT導入の効果が期待できます
ICTの導入によって、業務処理手順の変更や職員の活動内容の変化が起こり、DXが推進されることになります
その反面、セキュリティ管理や人材確保などの新たな課題、ICT機器の維持管理や人員育成などの新たな業務も出現します
ICT活用による効果
報告書には、現場業務にICTを導入した事業所における効率化の実感についての調査結果が掲載されています
その調査結果では、次のような業務で効率化が感じられる・ICTの方が便利だと思うとの回答がありました
- 報酬請求事務や会計事務
- ケース記録や業務日誌の作成
- 利用者の支援計画の作成
- 個別支援会議や関係機関との会議
- 職員の勤怠管理や給与計算
これらは、単にパソコンで業務処理をするだけでなく、次の代表的なICTの活用により、業務の効率化を実現しています
- クラウドサービスやグループウェアを使用した情報管理と職員間の情報共有
- 人事労務ソフトや勤怠管理システムを使用した労務等管理
- Zoom等のオンライン会議サービスを使用した会議やミーティング
運営指導や第三者評価においても、クラウドサービスなどを用いた情報の管理と共有の有用性を強調しているようです
また、障害者本人の参加が原則である個別支援会議などに、テレビ会議システムの活用による効率化と省力化が期待できます
以上のように、業務の効率化を図ることを目的に、どの業務に対して、どのようなICTを導入するのかを適切に選択すれば、相当の効果が期待できます
また、目的と解決したい課題が明確であれば、費用対効果を検討しながら計画的な導入が可能となります
まとめ
サービス利用者の自立支援と事業の効率化を実現するためには、ICT活用とDX推進を積極的に進めることが求められています
障害福祉サービス事業におけるICT活用とDX推進は、事業運営や現場業務の効率化に大いに貢献します
しかし、その導入には目的・目標の明確化、コストの検討と導入計画の策定、専門的知識の習得が不可欠です
ICT導入のメリットとデメリットを踏まえ、新たな課題に対応しながら、バランスをとることが重要です
参考まで
東京都と東京都福祉保健財団は、障害福祉サービス事業におけるICTの活用とDXの推進を支援する事業を展開しています
導入コストの抑制や人材育成に活用できますので、利用を検討されてはいかがでしょう
【東京都障害者サービス情報サイト】
デジタル技術を活用した障害福祉サービス事業所等支援事業
【東京都福祉保健財団】
障害福祉サービス等DX推進人材育成支援事業