運営指導で指摘された!? 形式的・形骸的なBCPを見直そう

本年4月より、業務継続計画(BCP)の策定と運用が義務化され、半年が経過しました。
今後の実地検査(運営指導)においては、BCPの策定状況に加えて、訓練や研修の実施状況が確認されることが予想されます。

すでにBCPに関して指摘を受けた事業者も存在しており、その内容は、BCPが形骸的で内容が不十分であるというものでした。
現在のところ、報酬減算の対象にはなっていないと考えられますが、指摘された内容は是正する必要があります。

BCPの策定の目的は、報酬減算を避けるためや実地検査(運営指導)などで指摘されないためのものではありません。
本来の目的は、障害福祉サービス事業者が緊急時にも利用者に必要な支援・サービスを提供できるようにすることです。
従って、形式的・形骸的なBCPでは、この本来目的を果たせず、事業の存続自体が危うくなる可能性があります。

今回は、形式的・形骸的でない実用的なBCPの策定と見直しのためのポイントについて解説します。

なぜBCPが指摘されるのか?

BCPの策定と運用の目的は、利用者への継続的な支援を確保することです。
障害福祉サービス事業者は、災害や緊急事態においてもサービスを途絶えさせないことが求められています。

しかし、BCP策定にあたって専門的な知識が不足している場合や策定に十分な時間や労力を割けていない場合、ネット上にある ”ひな形” をそのまま使用してしまうことがあります。
その結果、以下のような問題が生じることがあります。

  • ひな形に書き込むだけで重要事項が欠けている、または漠然としすぎている
  • 業務継続の目的が単なる災害対策や感染防止にとどまっている
  • 実行不可能な内容が含まれている
  • 策定後にBCPの目的や内容が職員に周知されていない

これらの問題があると、実地検査(運営指導)で指摘される可能性が高くなります。

BCPの役割を再確認する

障害福祉サービス事業者には、開業当初から多くの計画や指針、マニュアルの策定が義務付けられています。
以下に代表的なものを挙げます。

  • 非常災害対策計画
  • 消防計画
  • 虐待防止指針
  • 感染症対策マニュアル
  • 事故対応計画

これらは「事前の予防・対策」と「事象発生時の対応・対処」を目的としています。

一方、BCPは「事業継続」を目的としており、災害などの発生後も事業を維持するための計画です。
事業者は、非常事態においても利用者へのサービスを継続しなければならないため、BCPは不可欠な要素となります。

参考として、自然災害を例に、BCPがどのような計画であるかを解説します。

①災害等の事態発生で、日常の暮らしや平素の事業運営は、影響や被害を受けて、暮らし向きの低下や事業の存続が危うくなります。
 一般的には、時間の経過とともに、影響や被害が収まり、暮らし向きや事業運営は被害等からの復旧・復興へと向かいます。

②平素においては、災害等に備えた行動基準の取り決め、必要な資器材や備蓄品の準備など、“事前対策”を進めます。
 そして、災害等発生の直前・直後は、命を守る行動に徹し、生き延びるための“初動対処“の活動を行います。

③初動対処により、“命を守った・生き残った”後は、暮らしの復旧とともに、事業運営を継続させることになります。
 これが、“被害復旧と復興”と呼ばれる段階です。
 この段階では、「誰が、どこで、何を、どうやって」という判断と実行が重要になります。
 初動対処の段階と同様に、事前の対策があれば、絶望的な状況にあっても、復旧・復興に向けた一歩を進めることができます。

④BCPで示すべき事項は、事業所等における初動対処、被害復旧と復興、それらに対する平素からの事前対策に関する方針、実施要領・行動基準、資器材や備蓄などの全てを含むことになります。
よって、事業の運営に関する従来からの一般的な「対策(防災、防火、防犯、予防など)」という考え方に加えて、将来を見据えた「事業継続」まで網羅する計画がBCPです。

実用的なBCPを構築するためのポイント

形式的なBCPではなく、実用的なBCPにするためには、以下の観点から見直しが必要です。

①中断が許されない重要業務を特定する
 BCPが形骸化する主な要因は、事業の重要業務を明確にしていないことです。
 例えば、グループホームの場合、以下の業務が中断すると、事業運営に致命的な影響を与えます。

  • 居室などの居場所の提供
  • 食事提供や排せつ支援などの必要とされる生活援助
  • サービス提供実績の記録と報酬請求

②中断の原因を整理する
 災害だけでなく、感染症のまん延、事故や事件などでも重要業務が中断することがあります。
 それらに共通して、または、特定の事態のみに発生する状況や原因を整理します。
 例えば・・・

  • 利用者の死傷や退所
  • 職員の死傷や離職
  • 事業施設の損傷・焼損
  • 電気や水道などのライフラインの長期中断
  • 各種記録や報酬請求手続に必要な電子データの喪失
  • 事態対処に係る業務の増加による、職員の心身上の負荷の増大

③事前対策の強化
 重要業務が中断する原因は、どのような時・どのような事態で発生するかを整理します。
 また、それぞれの事態等に備えた準備、発生後の対処・対応の要領などを取り決め、BCPに列挙して明示します。
 その上で、次のような活動を平素から継続するようにします。

  • 人・モノ・お金の備え
    例えば、防災装備品の備え付け、食料・飲料水・電源などの備蓄、預金や保険など
  • 事態に応じ得る構え
    研修や訓練などを通じた知識・技術・経験の蓄積と実施要領への理解
  • 情報の収集と分析
    気象情報や交通情報、業界や政策、法改正に関する情報、利用者や職員個々の情報などの把握

 なお、BCPに研修や訓練の目的や目標を定義づけておくと、研修等を計画する際の参考となります。

BCPの見直しに必要な専門知識とは?

BCPの策定や見直しには、必ずしも高度な専門知識が必要なわけではありません。
むしろ、自分らの事業に関する専門知識、利用者や職員の身上や心情を知っておくことの方が重要です。

一例として、電気製品の取扱説明書を思い浮かべてください。
エレクトロニクスの専門知識がなくても、説明書どおりに操作すれば機材は動きます。
また、トラブルがあった場合でも、説明書の後半に解説がありますので、何をすれば良いのかが分かるようになっています。

BCPも同様に、職員の誰が見ても、何をすべきか・どうやるべきかが分かるように取りまとめておくことが重要です。
そのため、事業主・職員だから理解できる内容・文章で構成されるべきです。

ただし、ライフラインの特性を考慮した対策や建物や設備の強靭化、法改正や制度変更に対応する場合などには、専門的な知識を必要とすることがあります。

まとめ

BCPの策定は、単なる形式的な義務ではなく、障害福祉サービス事業者が利用者に対して絶え間ない支援を提供し続けるために不可欠です。
重要業務の特定、事前対策の強化、職員への周知徹底を図ることで、実用的で効果的なBCPを構築することができます。
また、BCPは、いざという時に事業を守る重要なツールであるため、定期的な見直しと改善が絶対に必要です。